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さて、しばし映画の話で盛り上がった後の事。
ふと泰雅が小さくため息を吐いた。
「彼女欲しいよねぇ」
ミルクティーをスプーンで意味もなくかき回しながら、泰雅が言う。
「まあ、そうだな」
異論は無い。俺も随分とご無沙汰だ。
「映画館にもさ、たくさん来てたよね、カップルが。思わず不幸を願っちゃったよ」
「危ないな。それが叶ってたら、今頃あの映画館の中が阿鼻叫喚の地獄絵図になって、俺達は容疑者か被害者のどちらかにされてたぞ」
「いや、別にあの場ですぐ何か起これって願ったわけじゃないよ」
「何にせよ、嫉妬は止せ。みっともないからな」
そうとも。嫉妬する必要なんてない。たまたま彼女がいないだけだ。
まあ、俺の知る限りで泰雅に彼女がいた事なんて無いわけだが。そういう点では嫉妬の塊になるのも無理はないのかも。
ちなみにいうと俺はある。もう、五年も前の話だけど。
「お前、イケメンなんだから女の子なんか簡単に誘えるだろ?」
泰雅にそういってやると、彼は眉をひそめた。
「そういうんじゃなくてさぁ。もっとこうちゃんとしたお付き合いっていうか……」
「それは無理だよ」
「何でさ」
「だってお前……すぐ言うだろ? 例の……戯言」
「戯言だって? 僕はそんなの言った事ないぞ」
「例のほら、前世が騎士とかいうあれ……」
「あれは事実だ。僕の前世は姫を護る騎士だったんだ。姫と僕は来世での再会を約束したんだ」
「それが戯言だ」
俺はため息を吐くしかなかった。
全く、これさえ無けりゃ単なるイケメンとしてやっていけるのになぁ。
「戯言じゃないってば。何で信じてくれないんだよ。僕と姫はいつか再会する。目を見た瞬間、分かるはずなんだ」
「ああそう。で、お前んちの犬が姫じゃない確証はあるのか?」
「ポチはオスだよ。ふざけるのもいい加減に……」
不意に言葉を止めた泰雅を見ると、目を見開いてこっちを見ていた。
「おい、どうし……」
彼の視線が向けられているのがどうやら僕では無いと気付き、僕は思わず背後を振り返った。
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