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その数日後。
俺は泰雅に誘われてファミレスに食事へ来ていた。
向かい合って座る俺と泰雅。その泰雅の隣には例のベロニカがべったり張り付いていた。
「やあ、君にはどうしてもお礼が言いたくて」
「彼を叱ってくれてありがとう。おかげで私達、幸せな関係に戻る事が出来たわ」
「ソリャヨカッタデスネ……」
自分でもヤバいぐらいの棒読み。
そんな事にも構わず、二人はテーブルの向こう側でべたべたしている。
何でファミレスで食べさせ合いっこしてんの、こいつら。しかも、王国の庭で並んで池を眺めた話とか、馬での遠乗りの際、フリッツがいかに素晴らしい手綱さばきをして見せたかとか、俺の割り込めない話で盛り上がっている。
そんなのを見ても出てくる感想は、こいつらマジかぐらいのもんで、俺は一刻も早くこの狂った場から立ち去りたかった。
奢ってくれると言うので一番高いステーキを頼んだわけだが、どういう分けかゴムを噛んでいる感じしかしない。
これはファミレスの肉が悪いのか? それとも俺の心が死んでいるのか?
「どんどん食べてよ。何なら追加しても良いよ」
泰雅が言うと、ベロニカも横で頷く。
「ああ、そうしたいんだけど、何だか食が進まなくってね」
「何で? タダ飯は嫌いだった?」
「そんな事ないさ。幸せな空気に当てられてるのかもな」
俺が言うと、目の前の二人は顔を見合わせて照れたように笑い合った。
「そう言えば、貴方は昔から気風が良かったわね。部下に食事をご馳走していたでしょう?」
「あんなのは当然ですよ。貴方だって召使たちに良くアクセサリーを上げたりしていたと聞きましたよ」
「あれはいらなくなったからなのよ」
「そんな事言って、優しいんだから」
うふふふふ、あはははは。二人の笑い声が右の耳から入り、左の耳から出て行く。
なぜおれはこんな地獄のような場にいるんだろう。何か悪いことした?
「どうしたんだい? なんか今日は元気ないね」
「そうかも……」
「ひょっとして、僕達に嫉妬しているのかな? だとしたら、あえて言おう。嫉妬なんてみっともないよ」
ドヤ顔でそんな事を言う泰雅の横っ面に拳を叩きこむ元気すら、俺には残されていなかった。
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