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scene 1
「ぶいあーるえむえむおー?」
呆けた顔で、うなじのところで髪を緩く縛った少女が、対面に座る人当たりのよさそうな少年の言葉を鸚鵡返しに繰り返す。
「そう。ディファレント・ディメンション・オンライン、通称DDO…もしくは神。聞いたことない?」
「神、ねぇ…知らないなぁ………機材は一応あるけど、あまりVRのゲーム好きじゃないんだよね。どうも、現実と感覚がずれるっていうか………。」
楽しそうに語る少年とは対照的に、少女の表情は険しい。それを見て、少年は首をかしげながら言葉を続ける。
「んー?詩音のマイPCってそんなにスペック低かったっけ?」
「CPUとか増設しまくってるからめちゃくちゃ電気代食うけど最新モデル相当の出力はあるはずだよ。自作だから壊れたら自力で直すしかないけど。で?用件は何、縁?」
「いったい何処からそんなお金持ってきてるの?って、それはどうでもいいか。とにかく、一緒にやろうよ、詩音も。」
「株とか、色々。暁兄がしょっちゅう非常識な額の小遣いくれるから、金銭感覚麻痺しそう。………うーん。面白いのそれ?」
「んー…俺が触った限りではだけど、クソゲーでないことは保証するよ?」
「………たまにパーティ組む程度なら。うち、人のペースに合わせるのあんまり得意じゃないし。」
「詩音ならそういうと思ってた。ってことで、どん!」
大袈裟な口振りと仕草で、少年が紙袋を少女の前に置く。
袋を見て、少女は胡乱げな目を少年に向けた。
「縁。」
「んー?」
「何これ?」
「ぷれぜんとふぉーゆー。というか、話の流れで察してほしいなぁ。」
「…縁、あんた正気?いくら一般家庭にまでVRのシステムが普及してるとはいえ、まだまだ高価い買い物だろうに。」
「と、思うじゃん?実は俺、Βテスターだったんだよ。このゲームの。で、Βテストのデータを運営に送ったら報酬?で製品版のソフトが二本送られてきたわけ。本数多くね?って思って問い合わせてみたら“ご兄弟なりお友達なりにあげて、このゲームを広めてください(意訳)”って返されたから、詩音にあげることにした。」
「………返品は?」
「残念だけど、クーリングオフまで含めて対象外かな?」
「…エイプリルフールとかではなく?」
「時差ぼけにしたって酷くないかな、詩音。夏真っ盛りで暑さに負けた?」
「………ドッキリなら、今白状したら許すよ?」
「しないって。詩音、そういうの嫌いでしょ?」
「………………わかった、信じる。貰うよ、ありがとう。」
「あ、忘れないうちに言っとくよ。招待コード入ってるから使ってね。」
「そういうことは渡す前に言え!」
「言ったら詩音絶対受け取らないじゃん!」
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