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「………良くわかってるね。」
「何年詩音の幼馴染やってると思ってるの?」
「年長さんからだから………かれこれ、13年くらい?」
「そだね、そんくらい。荒んでた頃の詩音も、ずっと隣で見てたんだから、家族ほどではないにしてもよく知ってるさ。」
「あは………あれ、うざかったよね。あいつら、面と向かって言う度胸はないくせに、無駄に行動力ばかりあって悪知恵も働く…本当、鬱陶しいったらなかった。」
「俺が庇ったら俺まで標的にされたな(笑)。」
「あったあった。最終的に、なんで収まったんだっけ?」
「詩音がぶちギレて、関係者全員ぼこぼこにしたんじゃん。」
「そだっけ?かっとなった時のことって、大体覚えてないんだよね。」
言葉を続けながらも、紙袋を持って少女が席を立つ。
「詩音?」
「唐突に嫌な予感が背筋をなぞったからうちは帰る。後で返すから、悪いんだけどここの会計持ってくれる?」
「りょ。初期設定はたっぷり時間使った方が良いよ。………待とうか、詩音。」
「何か?」
「ここ、三階。そっち、窓だよ?」
「うん、知ってる。それが何か問題でも?」
席を立った少女が向かう先を見て、少年が呼び止める。
事も無げに返して、少女は窓を開ける。
「………ま、詩音なら問題ないか。ゲーム内からもメッセは飛ばせるはずだから、ログイン出来たら教えて。」
「そゆこと。じゃ、また後でね?」
紙袋を抱え、躊躇なく窓から飛び降りた。
想定されるべきはずの何かが潰れるような湿った音は聞こえず、固く軽いものがぶつかる音が繰り返し生じ、それが遠ざかっていった。
「お待たせ縁くん、カフェラテだよ……窓枠掃除しなきゃいけなくなるから止めてって、詞音ちゃんには言った筈なんだけどなぁ。」
「ありがとマスター。……豆変えた?なんか部活でもやれば良いのに、“肌に合わない”って言い張って帰宅部なんだもん。勿体無いなぁ。」
「相変わらず鼻が利くねぇ、縁くん。でも、変えたの豆じゃないんだよね。」
「じゃあドリッパーか。」
「ここにいたか、縁。…詩音は?」
「嫌な予感がするって言って、つい先刻帰ったよ。俺も言ってた意味が今解ったよ………疫。」
人相の悪い茶髪の少年が、その場に残っていた縁と呼ばれていた少年に声をかける。
あからさまに顔をひきつらせ、呻くような声で応える縁に、疫と呼ばれた少年は口を尖らせて不平を言う。
「なんだよ、人を疫病神かなんかみたいに。」
「実際君が俺のところに来るときは大概何かしら厄介事を持ち込む時だろ!?」
「好きでそうしてるんじゃねぇよ!」
「話くらいは聞いてやるけど、自分の分は自分で払えよ。」
「うん、縁くんの言うとおりだ。ここは喫茶店だからね、滞在するつもりなら何か頼んでくれ。」
少年達のやり取りは、また別の話。
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