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一方、見事な軍隊式地形踏破術で自宅に帰りついた詩音はというと。
「…よし、振り切ったか。貰った物は………無事だね。ただいまー。」
「お帰り、詩音。早かったじゃないか?」
「ただいま、暁兄。今日は終業式だけだったから。」
「にしては少し遅いけどね。縁くんとおしゃべりしてたのかな?」
「そんなとこ。」
にこやかに、自身とよく似た風貌の窶れた男性と言葉をかわす。
会話の途中で、暁兄と呼ばれた男性が、詩音の持った紙袋に目をやった。
「ところで、詩音。その袋は?」
「ああ、これ?縁がくれた。Βテストに参加してたゲームの製品版だって。」
「彼がテスターをしてたっていうと………ああ、DDOか。」
「知ってるの?」
「僕も運営サイドだからねぇ、知らない方がおかしい。」
「………ごめん、ストレスかなんかで耳の調子がおかしいかも。もう一回言って?」
「僕も運営側の人間だからね。知らないわけがない。実をいうと、彼にこの仕事を振ったのは僕だ。嬉々として承諾してくれるとは思わなかったが。詩音が考えうることを先に潰しておくと、彼に製品版を二本送ったのは僕ともう一人の運営側の人間だけど、彼がそれを詩音に渡したのは完全に彼自身の意思だ。」
「んー…うーん…まぁ、いいか。じゃあ暁兄、運営側の人間としての暁兄に聞くけど。」
「まだ調整中のもの以外は禁則事項に触れない限りの範囲で答えよう。なんだい?」
「DDO、面白い?」
「他の運営達がどう考えているかは計り知れないが、僕個人としては、万人に“面白い”、“楽しい”と思ってもらえるものであってほしい。そして、システム調整等のためにダイブしてた僕自身の所感としては、かなり楽しめる作りになっていると思う。まぁ………あまり明かしすぎても興が褪めるだろう、あとは詩音自身の目でご覧あれ、ってところだね。」
「ん、そうする。それはそれとして、ちゃんとごはん食べてね?暁兄。あと、ちゃんと睡眠もとること。三日くらい寝てないでしょ?」
「うん、確かに三徹してるけどなんで判った?」
「暁兄元から細いけど、食べてない分がもろに顔に出てる。あとは、目の下の隈と肌の艶。」
「はは、お見通しか。昔から、詩音は勘が良いね。」
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