選ばれなかった竜の子

2/5
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 ぼくは毎年(まいとし)雨季(うき)にさしかかりはじめたこの時期(じき)になると、そわそわしはじめる。  もうそろそろだ。(つぎ)はぼくの(ばん)だと身構(みがま)えるが、いつも()まって、ぼくじゃないだれかが(えら)ばれてしまうのだった。  もう(とも)だちはみんな、とっくに(えら)ばれて、イケニエに利用(りよう)されてしまった。それどころか、もう村中(むらじゅう)すべての(ひと)がどうやらこのまつりごとの舞台(ぶたい)選出(せんしゅつ)されたようだ。そう、ぼく以外(いがい)には。  さすがに今年(ことし)こそはもう(えら)ばれるだろうと、いままで(えら)ばれなかったぼくは(すこ)しひねくれたような感情(かんじょう)(いだ)きながら、雨降(あめふ)りの(むら)をびしょぬれになりながら(ある)き、神殿(しんでん)へと()かうのだった。  (おも)えば、(いま)まで一度(いちど)も、なにか特別(とくべつ)なものごとに(えら)ばれることのない人生(じんせい)だったな。どんな(かたち)であれ、なにか(おお)きな意味(いみ)あることに(えら)ばれるのであれば、本望(ほんもう)というものだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!