こういうことだったのかな。2

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クラブが終わり、部員達はそれぞれ帰り支度をする。賢二もカバンを背負うと賢一が来たので一緒に帰ろうとしたが…賢一の視線は雅紀に向いていた。賢一は賢二の前を通り過ぎ、日野、品川も通り越して、雅紀のところで止まった。雅紀がチラと賢一を見る。 賢一はまだ少し納得がいかないという顔をしているが、雅紀に言った。 「…疑って、悪かった」 賢一の謝罪に、賢二も、部員達も驚いた。雅紀も少し、驚いた表情を見せた。賢一が言葉を続ける。 「雅紀。俺はこの間、不謹慎な雅紀をクラブに置いておくのはどうなのかと賢二に言った。でも賢二は雅紀を辞めさせるつもりはないと言った。俺の後輩になった以上、これまでの分を取り戻させて、やるべきことをきちんとやってもらうって。賢二はお前と向き合うことをやめなかったんだ。…お前、賢二の気持ち裏切んじゃねぇぞ。この先ちょっとでもそんなことしてみろ、俺がただじゃおかねぇからな!!」 賢一はそう言って行こうぜと賢二に声をかけると、入口の方に歩いていった。賢二はうんと返事をし、チラッと雅紀を見ると賢一のところに走っていった。雅紀が賢二の背中を目で追う。その表情にはもう、賢二への嫌悪は感じられなかった。 今日は美香のクラブが延長のため、賢一と賢二は一緒に帰ることができた。淡いベージュの空に、群青が滲み始めている。…賢二が、意外、という顔をして賢一に言った。 「賢一、けっこうあっさり雅紀に謝ったな。驚いたよ」 「副部長としてケジメをつけただけだ。みんなも謝ってたし…」 ムスッとした顔でそう言う賢一を見て、賢二がふっと笑う。 「でも、雅紀が少しずつ変わり始めたことは賢一にもわかったと思うし、雅紀を吹奏楽部(クラブ)にいさせること少しは認める気になっただろ?」 「まさか!俺が部長ならソッコー見捨ててやったのに!」 (雅紀のソロ演奏にちょっと心を動かされた、など絶対に言えない。)憤慨して声を大にする賢一に、賢二はやれやれと思いながら苦笑いし、前を向いた。 「…俺がまだ闇の住人だった頃、どんなひどい仕打ちをしても俺を見捨てないでいてくれたのは、こういうことだったのかな」 「えっ?」 「賢一が見捨てないでいてくれたから、俺も雅紀に同じことができたんだと思う。…ありがとう、賢一」 「えっ、いや、あはっ、…何言ってんだよ」 突然の感謝の言葉に、賢一が赤くなって照れまくる。ズボンのポケットに両手を突っ込み、早足で歩いていく。歩く速さを合わせ、賢二は賢一の顔を覗き込んだ。 「俺がしっかり雅紀を見ていくから、賢一も温かい目で…」 「絶、対、ヤダ!!」 「あはは…」 空の殆どが群青に染まり、シルエットと化した家々の窓には明かりが灯っている。そんな中で賢一と賢二は、頼む、ヤダ!お願い、ヤダ!を繰り返しながら家へと帰っていった。                      -終わり-
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