418人が本棚に入れています
本棚に追加
恋人の兄
「あの、何かご用でしょうか?」
「話がある、車に乗ってくれ」
知らない男に声をかけられホイホイと乗る人間なんているんだろうか?それとも俺が誘ったんだ、とか自意識過剰なのか、ただ気になるのは獲物を狙うような目だ。
じっと見つめられると、動けなくなりそうだ。
「知らない人間の車に乗る必要はないと思います。何か用件があるのでしたら今どうぞ」
「一応貞操観念はあるわけか」
なっ、貞操観念?馬鹿にしてる!
「ではあなたは高級車で手当たり次第にナンパをしているということですか?私は興味がないので失礼します」
男の横を通り過ぎようとしたところで
「安田香里奈を知っているか?」
「安田香里奈?」
急に何を言い出すのだろう?
「誰ですか?」
でも、彰と同じ名字だ。兄妹かなにかだろうか?不思議そうな表情の私をみて不機嫌な顔になる。
「まぁそうだな、あんたにとって妻の名前なんか必要はないからな」
「妻?誰の?」
何を言っているのかわからない。
この男の妻の名前を知るわけが無いし、そもそもこの男の名前すら知らないのだから。
「何か、勘違いされているんじゃないですか?私はその女性を知らないしあなたのことも知らない」
男は「ふっ」と嫌みな笑みをたたえると
「それなら、香里奈の夫の安田彰はよく知っているだろ」
「おっ・・・と?」
何を言っているの?
「そして、俺の義理の弟だ。そういうわけだから、車に乗ってくれるかな?話をしたい」
足下が崩れていくというのはこういうことなんだ。
話を聞きたい、いえ、聞かないといけない。
「すみません、車には乗れませんが彰さんと会う約束をしてます。駅前の「フラン」というカフェです。そこでお話を聞きます。」
「どうせ行くなら車に乗ればいいだろう」
「逃げませんから」
男は、はぁとため息をつくと「わかった」と行って一人でレクサスに乗りこんだ。
最初のコメントを投稿しよう!