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恋人の真実
足が重い
彰と待ち合わせをしているカフェ
いつもならヒールに羽が生えているんじゃないかと思うくらい軽やかな歩みが、今は鉛で出来たヒールのようだ。
このまま辿り着かなければいいのにと思っているのに、悪魔のようなあの男が待っているカフェに着いてしまった。
「ちゃんと来たな」
席に着くとすぐにウェイターにミルクティーを注文する。
「話をしてください」
「OKIの本社営業推進部の安田彰部長と不倫関係にあることは認めるんだな」
「奥さんがいることは知りませんでした」
「体の関係はいつから?」
嫌な言い方・・・
「一年前から交際しています。何度も言いますが、彰さんが結婚していることは知りませんでした。わたしは本社に行くことはほとんど無いですから」
「妹と彰君は妹が大学卒業を待ってすぐに結婚して2年になる」
凄く若い・・・
大学卒業後2年というと24歳くらいだろうか、私が27歳だからそれでも3つも若いし、35歳の彰さんからすると10歳以上も若いことになる。
「妹から、彰くんが浮気をしているんじゃないかと相談されて、興信所に調査を頼んだらあっけなくあんたと彰君がホテルで楽しんでいるらしいという報告書があがってきてね、まさか妹より年上の女が相手とは思わなかったよ」
くやしい・・・名前も名乗らないような男に言いたい放題言われて・・
「私も今とても混乱してます。このあと彰さんが来ますので私から確認をさせてください。一方的な話だけでは信用できないですし、興信所に私を調べさせたと言うことは名前も住所も勤め先も知っているのに、あなたのことは彰さんの義理の兄らしいとしかわかりません。そんな人の言葉を素直に信用は出来ません」
男は一瞬、ハッとしてから
「たしかにそれは悪かった」そう言うと内ポケットに入っていた名刺入れから一枚取り出すと目の前に置いた。
名刺にはOKIステーショナリー統括部長 沖田健一郎と書かれていた。
同じ会社・・・
「ところで彰くんは何時にここへ?」
「もうそろそろだと思います」
「それなら俺は後ろの席に座っているから」
そう言うと、自分のカップを持ち入り口からは死角になる後ろの席に移動していった。
いつもなら、待ち遠しい時間が苦痛に感じる。
急な残業で来れなくなって欲しいと思った。
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