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真実
「紗季ちゃん、いつも待たせてごめんね。行こうか」
やさしい笑顔は今の私にとって苦痛以外の何物でもない。でも、こんな風に優しくほほえんでくれるんだもの、沖田という男の話が本当なのか疑わしく感じる。
信じたい
「ここで少し話をしたい」
彰はにっこりと笑って「いいよ」と言って向かいの席に座った。
「そうだ、来月にでも一泊で温泉に行こうか」
旅行に誘われたのは初めてだ。本当は嬉しい、嬉しいけど・・・
手の平に痕が付くほど手をギュッと握り、ゆっくりと息を吐く
「奥さん・・・いるの?」
テーブルの上に置かれた彰の手がピクリと動いた。
「何を・・・そんなわけないだろ?」
「私よりも若い奥さん」
ゴクリと彰の喉がなる、少しうわずった声で
「誰が、そんなこと・・・言ってるの」
「俺だ」
沖田がいつの間にか二人を隔てているテーブルの横に立っていた。
「義兄さん・・・」
ああ、本当なんだ・・・
このまま消えて無くなりたい
外を見ると雨がポツポツと降り出して窓ガラスに雨粒があたっていた。
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