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ディナー
呼び出されたのは高級ホテルのラウンジ。
フロアでは自動演奏のグランドピアノから『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』が流れている。
沖田はすでに窓際のソファにゆったりと腰をかけていた。
何も言わず向かいのソファに座ると沖田は立ち上がり「それでは行こうか」と言って歩き出す。
「どこにですか?お話ならここで」
「腹が減った」
「は?それなら食べてくればいいじゃないですか、もしくはさっさと話を済ませてから食べてください」
「予約をしているから、そこで食べながら話そう」
澄ました顔で飄々と話す姿がムカムカと腹が立つが話をしなければ来た意味がない。
あきらめてついていくと上層階にあるフレンチレストランに席が用意されていた。
「シャンパーニュでいい?」
「いいえ、バドワで」
沖田はハァとため息をつくと給仕に伝える
「乾杯でもしようか?」
ニッコリと笑ってそんなことを言う。
憎らしい
「結構です、それより話を」
色合い鮮やかなタコのマリネが運ばれてくると沖田は優雅に口に運ぶ。
高級なコース料理・・・料理が終わるまで話はしないと言うことだろうか。
統括部長と名刺に書いてあった、慰謝料の話をするだけでこんな所に連れてくるなんて、どれほどスカした男なんだろう。
独身らしいということを聞いたが、こんな風に誰彼かまわず女性を誘うような男なんだろう。
最低、義理とは言えやっぱり兄弟だ。
彰のことは2~3日は哀しかったが、騙されていたことが心を締め付けた。
私は少なからず結婚の二文字を期待していた、でも彰はそんな未来を私に照らすことなど無かったのだから。
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