はじまり

1/1
前へ
/89ページ
次へ

はじまり

目の前には興信所からの報告書がある。 いわゆる浮気調査の報告書、そして結果はクロだ。 「はぁ」 一つ息を吐く。 先月のこと、妹の香里奈が相談があるからとマンションにやってきた。 香里奈が俺のマンションに来ることはほとんど無く、なにか用があるときは会社の方に来ることがほとんどだ。 OKIコーポレーション、事務機器と事務用品の製造販売を手がけている会社を祖父が創設し、現在は会長となり、今は父親が代表取締役として会社を指揮し俺は現在、経営に向けての修行として各部署に携わり、今はステーショナリー統括部長として業績に貢献している。 香里奈がことあるごとに会社に来たがるのは、大学の同窓で同期入社の友人である安田彰が香里奈の夫で、 「家でいくらでも会えるだろう」との俺の言葉に、仕事をしている彰を見るのが好きなのだと嬉しそうに話していた。 もともと彰は大学時代からの友人だから家にもよく遊びに来ていた。香里奈はまだ小学生だったが彰になついていて中学、高校に進むにつれ彰へ恋心を募らせていたようだ。 ようだ、というのも俺はそういう話に疎いし、まずもって年が離れすぎている。 彰も香里奈のことは妹くらいにしか思っていなかったと思うが、香里奈が大学生になってから二人は付き合いはじめ、香里奈の大学卒業をまってすぐに式を挙げた。 香里奈は俺の母親が病気で亡くなった10年後に親父が当時秘書を務めていた女性、つまり継母と再婚してから出来た娘ということで、両親から溺愛されていた。だから、大学を出てすぐだとしても結婚を許されたのだろうが、それなら大学を出る必要はあったのか実に疑問だ。 そんな香里奈がわざわざ会社ではなく、俺のマンションに来るということは彰に知られたくない用件だということだ。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1065人が本棚に入れています
本棚に追加