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現実に戻っていく
目が覚めると隣にいるはずの紗季がいない。
慌てて跳ね起きると無残な状態になっていた革靴をドライヤーで渇かしたあと靴磨きで磨いてくれていた。
「とりあえず東京に帰るくらいは大丈夫そうよ」
そう言って靴を持ち上げると、サラサラと砂が落ちる
「あっ、星砂」
紗季の視線の先を見ると、床に一粒星の砂が落ちていた。
ニッコリと微笑みながら見上げる紗季の唇にキスを落とす。
呼び鈴がなりドアを開けるとランドリーにだしておいたスーツ一式が届けられた。
「船の時間まで食事をする?ビーチに行く?それとも」
一応選択肢を伝えたが、俺の答えは一つだから紗季を抱き上げるとベッドに戻り気持ちを確かめ合った。
船に乗ると矢継ぎ早に着信が入る。
仕事を投げ出したのだから仕方が無い。社会人として失格だと思うが、デッキで風に当たっている恋人の姿を見つめながら口元が緩んでしまう。
「個人的な問題で昼間は都合がつかないが夕方には社にもどるからその時に指示をだす」
俺の視線に気付いたのか、紗季は振り向くと小さく手を振っている。
思えば会社をサボったことなど一度も無かった。
会社の跡を継ぐ、それは子供の頃から祖父に言われ続けてきた。自らに厳しくをモットーに仕事をしてきたが、こんなことも人生の一コマとしていい思い出になるんだろうな。
紗季が絡むとみっともないことだらけだ。
石垣島からの直行便よりも那覇経由の方が早いため那覇行きの便に乗る。
那覇空港での乗り継ぎの時間にも着信が次々とはいる。
「わかった、夕方には戻る」
通話を切って一つ息を吐くと
「何か飲みものを買ってくるけど、何がいい?」
「コーヒーを」
「砂糖ミルク無しね」
そう言って歩いて行く背中を見ていると、また着信があり画面を見ると彰からだった。
紗季の姿を探しながら電話にでる
「今夜会えないか?」
そういえば香里奈から相談があると言われていたんだった。
忘れていた・・・
彰はどういう答えを出したのか。
彰が離婚をしたら紗季はどうするのだろう。
どちらにしても、俺は紗季を手放す気は無い。
「今夜、ロアジールで」
はああああああああああああ
電話を切ると大きなため息をつく。
頭が痛い。
頭を抱えていると目の前にドリップコーヒーを二つ持った紗季が立っている
「お疲れ様です沖田部長」
そう言ってニッコリと笑う紗季から一つを受け取る。
。
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