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母
羽田に着くと紗季をまずマンションに送ってから会社に向かうと、一日半のサボりを取り戻すべく業務をこなしていく。
このあと、ロアジールで彰と会うことも憂鬱だし、香里奈の相談も正直に言うと面倒だ。
紗季は俺が異母妹である香里奈を大切にしていると思っているようだが、
事実は父を介して家族だから付き合っているといった感じだろうか・・・心の中では継母子に線を引いている自分がいる。
母が亡くなったのは俺が2歳の時だったから、俺が小さすぎるから10年待って入籍したのだと思った。
よく考えたら、俺が12歳になってからより2歳の時に家族になった方が違和感がなかっただろうし、継母は母が亡くなってからは平然と家に来ていたから10年待つ意味がよく分らなかった。
10年後、きっちり計算したように香里奈を身ごもってすぐに入籍をした。
俺が二十歳になった時に、10年の意味を知ることになった。
母は俺に爆弾を用意していた。
母は“俺まで”継母に取られることが許せなかったんだろう。二十歳の誕生日に顧問弁護士から一通の手紙を渡された。
それは亡くなった母からの手紙だった。
そこには、母が俺を身ごもっている時から父と継母の関係が始まったこと、自分が死んでから10年は二人が結婚することを許さないという手紙を二人に送ったこと、それが正しく履行されたかを俺に見極めてほしいといったことが書かれていた。
母は、死の間際において俺の母ではなく親父の正妻だったのだと、二人に聞いたことは無いが母が二人に手紙を送ったということだから、さすがに母に対して多少の贖罪の気持ちがあって“10年”という期限を守ったのかも知れない。
俺はずっと甘えてくる香里奈に距離を置いたことで、香里奈は彰に依存し甘えるようになったのかもしれない。
あくまでも憶測に過ぎないが。
その手紙は母というよりも女の執念を感じさせる物で、白いはずの便せんはどす黒く靄を纏っているように見えた。
だから、母の手紙はたまたま見かけた神社で焼いてもらった。
「嫌なことを思い出したな・・・」
声に出して呟いてからロアジールへ向かった。
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