雨降って地固まる

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雨降って地固まる

「いらっしゃい」ロアジールのドアを開けると司がすぐに声を掛けてきた。 カウンターにはすでに彰が座っていて軽く手を上げる。先日ここで会った時よりも顔色がいいように思う。 椅子に座ると同時にワイルドターキーのグラスが目の前に置かれた。グラスを軽くクイっと上げてから口に含む。 木の香りがフッと鼻を通っていく。 「それで?」 彰は唇を濡らす程度にバーボンを口に含むと俺の目をしっかりと見つめる 一瞬、紗季のことでなにか言われるのかと思ったが 「香里奈に離婚の話をした」 やはり香里奈の相談はこれだろう。 「で、香里奈はなんと?」 「最初は手がつけられないくらい暴れたんだが、落ち着いてからはどうしてなのか理由を知りたいと」 「まさか、紗季のことを言ったんじゃ無いんだろうな」 彰は『あれ?』という表情をした。まずい、“紗季”とか俺が名前を呼ぶのはおかしいよな・・・ 「言わないよ、紗季ちゃんに迷惑を掛けられないし」 彰にもきちんと紗季と付き合うことになったことを伝えないといけないが、今はまず彰と香里奈のことが優先だ。 「じゃあ、何て?」 「もう我慢することは無いと思って、全部言った」 「「全部?」」 司と綺麗にハモった。 「紗季ちゃんのこと以外はね、流されて結婚したことや家事を一切やらないところや、毎日のように着飾って遊びに行ってること、香里奈との価値観が合わないことや」 「香里奈を愛せないこと」 そこまで言ったのか・・・ 「香里奈は何だって?」 「その日は何も言わずに実家に帰った。義父に話をするんだろうと思ったが、数日経っても義父からも義母からもなにもいわれなくて、どうなっているのか、かといって自分から聞くのも怖くてそのままにしていたら、香里奈がマンションに戻ってきて『そういうことを直せば愛してもらえる?』のかって」 「あの香里奈が?」 「オレも香里奈や義両親からかなり言われることを覚悟していたから拍子抜けしたというか」 「それで今はどうしてる?」 「太田さんに家事を教わっているみたいで、夕食を作ってくれるようになったよ」 「そうか、それならやり直すってことか?」 彰は手の中で暖まったバーボンを口に含んでから、頭を掻く 「勝手だとは思うけど、そういう所を見ると可愛いと思って、オレも香里奈のことを愛する努力をしてみようかと思う。」 「雨降って地固まるってやつ?」 ずっとだまって聞いていた司が一言でシメてしまった。 「ところで、来週は会長の誕生日だよな」 「沖田のおじいちゃんって何歳?」 「確か90歳だったかな?忘れてたよ・・・」 「会長の誕生日パーティはここぞとばかりに女性陣が義兄さんに群がってくるからな」 「健一郎もそろそろ身を固めたら?そうしたらイベントの度に煩わしいことが無くなるんじゃないの」 グラスに残ったワイルドターキーを飲み干すと「オレはもう帰るよ」というとロアジールを出た。 彰も溜っていたものを吐き出したことで香里奈との関係を修復出来そうだ、香里奈も大人になったということなんだろうか?ちょっと前なら両親に話して騒ぎだしそうなものだが、自分を変えようとするとは少し驚いた。 俺も紗季のことをどう説明したらいいだろう。 彰は香里奈とやっていくことにしたのだから、しかも可愛く思うとか言っている訳だし、堂々と恋人だと紹介すればいいだけだ。
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