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「何で? 雫ってきれいじゃん」
そういうと千堂は雨の中に手をかざした後、私の目の前で手を止めた。
ポタリと千堂の手から雨が雫となって落ちる。
千堂の手をみている私を見つめる千堂の視線に気づき、ドクっと心臓が大きく音を立てるのがわかる。
私はゆっくりと、不安と期待が入り混じるような気持ちで千堂へと視線を向けた。
ばっちりと瞳が重なり、笑うでもない真面目な千堂の表情に私も何も言えない。
しばらく無言な時間が過ぎたが、ほんの1秒2秒だろう。それがやけに長く感じた。
「中で待ってろ」
それだけを言うと千堂はいきなり、雨の中に足を踏み出した。
「千堂! 濡れるよ!」
その声は夜の雑踏と雨音に消されてしまった。
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