Story 1 雫が落ちる前に

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『前原さん行きますよ』 正式に配属になってまだ数カ月の頃、取引先に向かうため外出しようとしていた。 千堂のアシスタントについて1カ月余り。 新人とも思えない余裕と態度で、どちらが後輩かわからない様な気さえする。 そんな千堂に促され、私はカバンを持つと千堂の後を追った。 外は梅雨の為、じとっとした湿気を含んだ空気と、気分を重くするような灰色の空が広がっている。 エントランスを出ようとしていた私は、空を見上げると無意識に小さくため息を付いていた。 『ため息なんてつかないでください』 いつもは飄々として私の前でも表情を崩さない千堂が、珍しく私を見て表情を歪める。
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