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なんとか優斗に、先生を責めないで欲しいと頼もうとしたとき、先生の口からきっぱりとした声がでた。
「本気だから、捕まえたんだろが。遊びだなんて思ったこと、一度もないわ」
崎谷先生が優斗の怒号と同じくらいの圧倒感で対峙している。先生の背中に庇われた沙耶は見ることが出来なかったけど、崎谷先生の目は驚くほど真剣で、その鋭さで優斗の目を切ってしまいそうなくらいだった。
先生の迫力に、優斗の息が一瞬詰まる。それでも本気だなんていう言葉は、俄かに信じられなかった。
「嘘だっ! 教師が生徒に本気になるなんて、信じられるか! 沙耶、沙耶は騙されてるんだっ」
「違う! 優斗! 私、本当に……、…本当に先生のこと好きなの……っ」
「……沙耶…っ」
優斗が悲壮なくらい顔を青ざめさせている。沙耶の告白に言葉を継げなくなった優斗に、崎谷先生が言い放った。
「お前がどう思おうと勝手だが、教師が生徒に惚れるのがおかしいって言うんだったら、俺は今から職員室に辞表出しても構わない」
「………っ」
優斗が息を呑む。それでも負けたくない一心で言葉を選んだ。…どうしても、沙耶を先生に渡すのだけは出来ない。
「い…、いい年した大人が、どうして十七のガキを本気で好きだって信じられるって言うんだ…っ。沙耶だって、…沙耶はまだ本当に純粋だから、適当な好意に流されてるだけなんだ…っ」
優斗の声が震えている。対照的な崎谷先生の声は、荒げていないのに教室内にぴしりと届いた。
「じゃあ、お前は、そんなガキの恋愛のつもりで沙耶のこと見てたのか。お前が持ってた本気って、それっくらいのものだったのか。…お前が本気で好きになった奴のこと、お前は信じてやれないのか」
優斗が驚きで目を見張る。強張った体を必死で止めていたた芽衣も、口を開いた。
「優斗くん…。好きだった子盗られるのが悔しいのは分かるけどさ…、やっぱり沙耶の幸せが一番だと思わない…?」
更に目を見開いて、優斗は背後の芽衣を見た。芽衣は少し痛ましげに優斗を見つめる。
「…悔しいだろうけど、男だったら、好きな子の幸せ、喜んであげてよ……」
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