美咲の現実

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美咲の現実

 午後6時過ぎ、リモートワークによる仕事を終えた美咲。  気分を変える為、キッチンのテーブルに私物のパソコンを持って移動。お気に入りのハーブティーを淹れ、見逃していた映画を観た。途中、簡単な夕飯を作って食べる。  映画を観終わるとシャワーを浴び、スマホで動画等を見漁るのが、最近の持て余す時間をやり過ごす習慣になっていた。  ふと壁掛け時計を見ると深夜に近い。 「あれ、またやっちゃった……」  急に疲労を感じた。目を酷使する上、全身がこり固まっている。 「アタタ…… 肩こったー」  眼鏡を外すとテーブルに置き、目を軽く揉んでから、首と肩を順にグルグルッと回す。  巷では出処不明のウイルスが流行していた。感染が拡大しつつある昨今、人と接触しないよう国から「必要最小限の外出」にするよう呼び掛けられている。  新しい生活様式を求められた結果、仕事をする環境も大きく変わっていた。ここ数ヶ月は一度も出社していない。 "ゆくゆくはオフィスを地方へ移すらしいですよ"  先日、同じ部署の後輩、富山真由(とみやままゆ)からもたらされた情報だ。衝撃を受けた美咲は真由とチャットでやり取りをした。 "私たちはパソコンさえあれば仕事できますもんね" "そうだね。でも、混雑した電車通勤は辛かったけど、賑やかな職場は懐かしいわ" "先輩、息抜きしてます?今度女子会しましょう" "え、どうやって?" "便利なアプリがあるんです。詳細を送るので、アプリをインストールしてくださいね"  後輩とのチャット内容を思い出し、ため息をついた。 「私、すでに世の中から置いていかれてる……?!」  ひとり暮らしの山野美咲(やまのみさき)28歳。  人と会えない毎日がこれ程心細いとは思わなかった。先行き不安な毎日を送っている。 「女子会も今やパソコンでできる時代になったのねぇ。それじゃこの先、運命的な出会いなんて期待できないのかな。……あぁ、運命の出会いって、このご時世死語になりつつあるかもしれない」
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