オフィス

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 美咲が通勤していたオフィスビルへ入ると、またしても不思議な現象に遭遇した。受付の警備係の男性が光っているのだ。  美咲は思わずジーッと見つめてしまう。 「おはようございます」  警備係が爽やかに挨拶してくれる。その警備係、見た目は美咲とそう変わらないと思う。後輩の女性社員がイケメンだと騒いでいたっけ。以前は、出勤時と帰宅前に必ず見ていた人だった。  それにしてもこの光はいったい何なの? 「あ……おはようございます」 「珍しいですね。今日はご出勤ですか?」 「あ、そうじゃないんですけど」 「そうですか。先程、同じ社の方が入って行かれましたから、鍵は開いていますよ」 「同じ社の人……もしかして?」 ……矢嶋?そうかもしれないし、違うかもしれない。  美咲は、はやる気持ちを抑えてお礼を言うと歩き出した。  エレベーターホールには、顔見知りの女性が立っていた。美咲が声を掛けると、 「あら山野さん。珍しいわね。今日は出勤なの?」 「そう言う訳じゃないのですが……」 「羨ましいわ。うちなんかいまだに週の半分は交替で出勤してるのよ。まぁ、時差通勤してるから楽だけどね」 「大変ですね。お疲れ様です」 「そうだ山野さん、落ち着いたら食事でもどう?」 「えぇ、良いですね。是非」  七階に到着してエレベーターの扉が開く。美咲はマスクの下、笑顔で別れた。  その女性とは顔見知りなだけで交流はなかったが、誰もが人恋しくなっているのかもしれない。  誘われた美咲も嬉しくなったのだから。
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