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「……え?」
「……お?」
「私、私、前から矢嶋先輩のことが好きなんです。先輩が彼女と別れたと聞いて、どうしても会いたくて」
ヤダヤダ止めてぇー!
嘘でしょ?信じられない!
あぁ、こんなのダメよ!
私、いったい何を見せられてるの……?!
真由がこんなに積極的な子だとは知らなかった。それよりも、真由が矢嶋のことを好きだったことを知らなかったのだ。
しかし、二人のラブシーンを見に来た訳ではない。美咲は手をギュッと握ると、
「ちょっと、こんな所で告白なんて……」
美咲が小声でつぶやくと、真由が矢島を掴んだまま顔だけ振り返った。大きな目を潤ませながらも美咲をキッと睨みつけている。
「先輩、邪魔しないでください!!」
美咲の言葉をピシャリと跳ねのけた。
数ヶ月会わない間に、人間はこんなに変わるものなのかと驚いてしまう。
矢嶋はヤレヤレと言うように両手を上げ降参の意を表したように、
「あー君、山野の同じ部署の富山さんだっけ……?」
「真由って呼んでください」
「……違う。ソーシャルディスタンスって知ってる?ウイルスって怖いんだよ。俺が感染してるかもしれないだろう?つまり、離れてくれないかな?」
真由は、ハッとして矢嶋からぴょんと離れた。一瞬、下を向く真由。それから、美咲を振り返った。
マスクをしているからよく見えないが多分青褪めているのだろう。目に涙を浮かべ、体は小刻みに揺れている。
「し、失礼しました……」
そう言って頭を下げると、パッと走り出し、止まっていたエレベーターに乗り込むとドアが閉まった。
多分、泣いているだろう。
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