美咲の現実

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 都心からやや離れた街に住む美咲。実家は隣県と左程遠くはないが、ひとり暮らしに憧れ約6年前に実家を離れた。オフィスのある都心は家賃が高く部屋も狭い。そこで、紹介されたのが特別快速や通勤急行に乗るとニ十分程で通勤できる立地のこの街。 「混雑ハンパないから、遅刻しそうな時以外は乗らなかったけど」  今はさすがに、そこまで混んでいないらしい。  リモコンを使ってエアコンを止め、東南の掃出し窓を開けた。温暖化激しい昨今には珍しく深夜になると心地よい風が入ってくる。近くに鬱蒼とした森と景観の良い川があるからだ。二階建てアパートから見える眺めも長閑。 今時珍しく高い建物もあまり建っておらず目前には畑が広がっている。その最奥にニ階家の住宅が並んでいるが、今はひっそりと闇に静まり返っている。  矢嶋、もう眠ったかな……? 「ヤメヤメ不毛なんだから」  同期の矢嶋には、長い付き合いの恋人がいる。こんなご時世、報せが来ないだけで既に入籍してるかもしれない。  そこまで考えて、 「あーヤメヤメ、ドツボにハマっちゃう」  美咲はキッチンの冷蔵庫から梅酒サワーの缶を取り出した。
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