美咲の現実

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 思えば、二十五歳を過ぎた辺りから時間の流れが急加速し始めたように感じていた。仕事にもやり甲斐を感じ、ほどほどに充実していた。  同期の矢嶋孝之(やじまたかゆき)とは入社研修のグループが一緒だった。配属された部署は違ったが同期仲が良かった為、仲間内でよく飲み会をしては愚痴を吐き出し、励ましあったものだ。 「矢嶋は仕事ができる営業部のホープ。でも、恋人がいたから、矢嶋を狙っていた女たちは悔しがってたっけ」  その実、美咲もその一人だったが心の奥深くに仕舞い込み頑丈な鍵を掛けていた。  誰にも知られないよう仲の良い同期として付き合いを貫いていた。  ところが出社しなくなってから、鍵の掛りが甘くなってきたのか矢嶋のことを頻繁に思いだしてしまう。 「だからヤメヤメって!ホントに不毛なんだって。っていうか素敵な出会いでもできれば、こんな思いしなくなるはずなのに…… あーぁ、世界がこんな状況じゃ絶対無理じゃない?……はぁ」  美咲はひとりごとをこぼしながらため息をつく。外出できない日が続いているのだから出会いなんて皆無だ。  壁際のベッドに腰掛け梅酒サワー缶のプルリングを開けるとゴクゴクと喉の奥に流し込む。  一日の終わりに飲むこれは格別だ。 「ふぅ。あぁ美味しい」  しかし、美咲のつぶやきは止まらない。 「だいたいさ……」
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