デモ

1/1
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

デモ

 SNSの拡散により、翌日、人が集まった。 「結婚令反対!」  デモ隊は元勇者レイシを先頭に、王宮を目指して街道を行進する。  レイシは眼光鋭く王宮を見すえ、人一倍大きな声をあげて煽動する。  結婚や恋愛という文字はレイシの頭から消え、打倒悪の結婚令という正義感の炎が燃え広がるのみ。  その様子を歩道から眺めるプラムは、ひっそりとほほえむ。 「よかった。レイシに正義感スイッチというものがあってよかった。  じゃなければ、あのとき自責の念に駆られて、ふさぎこんでしまったかもしれない……」 「わいが見こんだ男は、ああ元気がなきゃいかんわ。かつてたくましく、強かったじいさんのように」  二人に見守られていることはつゆ知らないレイシ。王宮に近づくと、護衛軍が立ちはだかった。 「王の(めい)に逆らう者は、反逆者とみなす。即刻解散せよ。  今、解散すれば罪には問わ――」  護衛軍の声を無視し、デモ隊は発言と歩みを止めない。 「言論の自由だ!」 「表現の自由! 非結婚は表現の自由!」  この国では、王の命令に背くデモは禁止されている。だが、デモ隊はひるまず進む。 「最後通告である。解散せよ。さもなければ、武力行使を遂行する」  そんな無慈悲な通告が軍からもたらされる中、軍人たちの胸中も複雑である。  自身も未婚の者や、デモ隊に知り合いがいる者もいて――、 (ねぇ、お願いだから止まってよ。仕事だからやらなきゃいけないけど……、キミに銃を向けたくないよ)  デモ隊をトップで率いる者と面識があるこの軍人は、ポケットにしのばせたリボンのお守りを握りしめる。  通告を無視し、デモ隊は進み続ける。 「射て!」  デモ隊に銃を向けていた軍隊が一斉射撃を開始した。  が――、花が、花びらがまう。弾丸は花びらとなり、デモ隊に降りかかる。  突然の花の乱舞に見いるデモ隊は、一時的に足を止めた。 「どうだ、若造。わいの力は」  一瞬静かになった街道。聞き慣れた声がレイシに届く。  えっ? と、振り向いたレイシの目線の先には、プラムに車椅子を押してもらっているトメさんが――! 「今日仕事に行ったら、どうしても協力したいって、頼まれちゃった」  と、プラムはレイシににこやかに手を振っている。 「え、トメさん、大丈夫? 俺、飛ばしちゃったけど」  レイシはトメさんに駆けよった。 「あんなので、くたばりゃしないよ。わいは、あんたが気に入ったよ。いけ! 若造」 「ありがとう、トメさん」  なぜあれで気に入られたのかわからないが、レイシはありがたく前進した。 「結婚令反対!」  銃が使えなくなった軍は、声を張り上げるデモ隊に斬りかかってきた!  レイシは、あらんかぎりの力をこめ、手をつきだす。爆風のような威力が飛びだし、軍人が一気になぎ倒されていく。  非常事態に、最新鋭の軍用飛行機が出動された。数秒でデモ隊の上空に浮かび、発射準備にはいる。標準がレイシに合わされた!  だが――、突如風が吹き荒れ、撃てず。  上空に気づいたプラムが、風を操っていたのだ。  プラムが手を弧を描くように回すと、飛行機は風に絡めとられるように、くるくると舞い、彼方へ消えていった。  前進するレイシは、一人、そのまま王宮に入っていく。  王宮を固くガードする護衛軍を軽々押し倒し、あっという間に王の間にたどり着いた。  王の護衛は腰が引け、王を守る者はいない。 「ひぃぃぃ。ま、魔王を倒した化け物にやられるぅー!」  勇者が敵となったとき、魔王を倒したその力をみな畏怖して逃げまどう。  が、それは誤解をしている。実際に剛力だが、レイシが魔王を討伐できたのは仲間の存在があったからだ。  しかし、それを知らぬため、対峙できる者はなく、無駄に怖がる。 「結婚令をなくせ、さもなくば――」  レイシは途中で奪っていた剣を、玉座に鎮座する王に向ける。 「王の命は絶対だ」  王はまったく動じない。怖がりもせず、戦おうともしない。  むしろ、笑っているように見える。  揺るがない王に、レイシは剣を振り上げた――!
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!