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プロローグ
西山第二高等学校。
校門に取り付けられた銘板は、老朽化により、ひび割れや、変色などで、とても綺麗とは言い難い状態になっていた。
明は校門を潜り、校舎を見上げる。
白いコンクリート造りの校舎に、オレンジのレンガで造られた正面玄関。緑の三角の屋根の下には大きな時計。
至って普通の公立高校といった感じである。
田んぼに囲まれたこの校舎は、風通しが良く、夏は涼しいが、冬は地獄のような寒さである。
まだ少し寒さも残る三月下旬。明は、着ていたジャージのフードを被り、歩き出す。
そして、校舎の中には入らず、駐輪場の横を通り、校舎の裏にあるグラウンドを覗いた。
春休みということもあり、部活動をしているのはサッカー部のみである。砂埃のたつグラウンドで、約50人の選手たちがボールを蹴っている。
明は、グラウンドの横の駐車場からその様子を眺めていた。
「ちわーっす!」
明に気づいた一人の生徒が元気な声で挨拶をした。その生徒は、グラウンドの手前にある、人工芝の広場でストレッチをしていた。
彼に続いて、他の生徒たちも、明に挨拶をして、またストレッチを再開する。恐らくこの広場は、サッカー部員の怪我人がストレッチをするために作られた広場なのだろう。彼らの身体には湿布や包帯が巻かれていた。
明は、その生徒たちに会釈をして、またグラウンドを眺める。選手たちは、顧問の周りに集まり、全員同じ姿勢で、顧問の話を聞いていた。
「押忍!」
グラウンドに野太い声が響き渡ったと同時に、選手達が小走りでグラウンドに散らばる。紅白戦をやるのだろう。赤と黄色のビブスを着た選手が、それぞれ自陣で綺麗なフォーメーションについていた。
ハーフウェーラインの延長線上に置いてある、コート内を見渡せる高台から顧問が笛を鳴らし、紅白戦が開始。明はグラウンドの中に入り、ザクザクと砂の音をたて、コートの方へ歩いた。
「お久しぶりです、近藤先生」
明は、高台から険しい顔で指示を飛ばしている、白髪混じりの顧問に声を掛けた。
「おぉ!久しぶりだな、明」
さっきまでの表情とは、打って変わって、目尻にシワを寄せ、くしゃっとした笑顔で明に笑いかけた。
ーー何も変わってないなこの高校は。
明は、顧問の笑顔と、グラウンドでボールを蹴る選手の真剣な顔を交互に見て、そう思った。
「俺の代わりにしっかり頼むぞ、村上明先生」
いつの間にか、高台から降りていた顧問は、明の肩をぽんっと叩いた。
「えぇ、リベンジは果たしてやりますよ」
明は、顧問の目をじっと見て、そう言った。
ーー俺は二十年前の悪夢から解放されるために、この高校へ教師として戻ってきたのだ。
明は強い眼差しで、選手たちと長年、脳裏に焼き付いた男の顔を睨みつけた。
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