変わりない部屋

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ

変わりない部屋

古い畳の匂いがする部屋。啓太は一人で部屋の中で立っていた。足元にはスマホと美好が肩から提げていた布鞄が落ちている。拾い上げると、布鞄は発光して光の砂になって消えていってしまった。 …確かに美好と一緒に時空を渡ったと思ったのに。やっぱり仮想空間での存在である美好は現実世界へは来られなかったのだろうか。今、美好は時空の狭間で彷徨っているのだろうか。そうだとしたら、啓太は自分の行動を悔んでも悔んでも悔やみ切れない。 自分の手のひらを見つめる。確かにこの手に美好の手の感触が残っているのに。神様はやっぱり啓太が美好と一緒に在ることを許してくれなかったのだろうか。 一人で沈んでいると、不意に玄関のチャイムが鳴った。誰だろう。今は誰にも会いたくない。しかし訪問者を放っておくことは出来なかった。玄関の三和土(たたき)に出てチャイムに応じる。 「…はい」 啓太が応答すると、耳を疑う声が聞こえた。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!