帰宅

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帰宅

―――心に メッセージは 届いてますか? 今日も一日が終わった。コンビニで買った夕食を携えて家路につく。途中、歩道橋を渡らなければならないのが、この道の嫌なところだ。啓太は一歩一歩階段を上り、上の通路の真ん中に立った。 歩道橋の下には都心と住宅地を結ぶ道路が広がっていて、その道をヘッドライトが次々と通る。まるで光の川だ、と啓太は思った。次から次へと流れてくる光の水に身を投げたら、何の変哲もない平凡な啓太の生活も楽になるのだろうか。そう思って歩道橋の下を見る。光の帯はすごいスピードで流れて行っていて、生半可な覚悟では飛び込めそうもない。啓太は諦めて、とぼとぼと残りの歩道橋を渡って家に向かった。 1Kの小さな城。それが啓太の住まいだった。築年数は三十年を超えているだろうか。設備も古くエアコンの利きも悪い。蒸し暑い部屋の空気を入れ替えようと、啓太は部屋の窓を開けた。外からは電車の通る音もする。タタン、タタン…、としばらく聞こえていたが、やがて夜の闇に吸い込まれていった。啓太は窓を開けたまま、コンビニで買ってきたカップラーメンの蓋を開ける。コンロでお湯を沸かしてラーメンの容器に注いで三分。その間に手早くネクタイを抜き、ワイシャツのボタンを緩めた。すると丁度三分が経ち、ラーメンが出来上がる。コンビニでもらった割り箸ではなく自前の箸でラーメンを啜ると、塩味が染みる。汗を沢山掻いたからだ。今日も暑い一日だった。この熱気では夜もよく眠れないだろう。それでも疲労から、畳の上に横になった。
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