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現実世界へ
ぱちり、と瞬きをして、美好が啓太を見つめる。大きくて濡れた瞳に、啓太が映っていた。
「…………」
美好は黙ったまま啓太を見つめている。現実世界に行くなんて考えもしてなかっただろう美好は、きっと啓太の言葉を一生懸命考えている。啓太はじっと待った。
「………わ、私……」
「……」
「……お仕事を止めてしまったら、私に啓太さんに会う価値なんて……」
ずっとメッセンジャーとして生きてきた。それ以外のことは、考えもつかないのだろう。
「僕は、メッセンジャーだから君に会いたいんじゃないんだ。君自身に、会いたいんだ」
「私…自身……」
美好は啓太の言葉を繰り返した。ぎゅっと美好の手を握る。
「行こう、美好。神様の采配に任せるんじゃなくて、僕たち自身で歩いていこうよ」
そう言って手を引けば、美好は素直についてきてくれる。啓太と美好は光り輝く扉を潜って、現実世界へと一歩を踏みだした……。
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