猫を拾わなかった話。

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振り向いたものの、わたしの体は動かない。そんなわたしを、チャッキーは「早く早く」と手招きする。 「大丈夫だから! ね?」 その言葉で、わたしはやっと足を踏み出せた。大丈夫ということは、生きている。そして、生きていれば彼が引き取ってくれるのだ。わたしを呼ぶのは、なにか手助けが必要なのかもしれない。 「ねえ、見てよ」 「えっ!?」 けれど、待っていたのは予想とは全く違う結果だった。ブランコの脇にあったダンボールは、忽然と姿を消していたのだ。 代わりに、わたしのかざしてやった傘だけが、たたまれてそこに置かれていた。 「今日、雨やまなくてよかったね」 呆然とするわたしに、チャッキーが屈託のない笑みを向ける。 「多分さ、雨で可哀想って思った人が保護したんじゃない? ユッコちゃんのお陰だよ」 「わたし?」 「ユッコちゃんの傘があったから気づいたんじゃん? だってこんな暗い中、傘でもなかったら、ダンボールなかなか気づかなくない?」 確かにそうかもしれない。あの時はまだ辺りの看板がついていて明るかったけれど、今は真っ暗だ。 「だから、ユッコちゃんのお陰。んで、ユッコちゃんが傘をかざしたのは雨のおかげ」 「……そうだね」 本当は心の隅で、違う可能性も考えついた。もう既に事切れていて、それを誰かが片付けた可能性。 でもそれは、口にしなかった。チャッキーの優しさを踏みにじりたくなかったから。彼もそこを考慮した上で、敢えて言ってくれているかもしれないから。 「あと、とりあえず言えるのはさ、今日のこの出来事は、俺はずっと忘れないよってこと。ユッコちゃんも忘れないでね」 ひたすらに優しいチャッキーの言葉に、少し目頭が熱くなりながら、しっかりと頷いた。
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