猫を拾わなかった話。

2/11
前へ
/11ページ
次へ
 駅前の大通りを途中で小路に逸れれば、飲食店がぽつぽつと並ぶ景色の中、やや唐突に小さなブランコが姿を現した。  ワンボックスカーが一台停められる程度の敷地に、ブランコと石のベンチだけ。公園とも呼べないその空間はひどく場違いで、いつまで経っても見慣れない。  存在理由が気になるものの、考えたところでわたしにわかるはずもない。雨に濡れる寂しげなブランコを眺めながら、いつものようにただ通り過ぎようとして。  ──どうして雨音は、を消してくれなかったんだろう。  とても小さく、でも確かに聞こえてしまった鳴き声。ブランコの脇に不自然に置かれたダンボールの中身は、もはや見なくてもわかる。  小さな子猫が二匹、雨に濡れていた。やっぱりか、というため息を口からそっと逃す。 「あなた達、捨てられちゃったの?」  しゃがみ込み、無意識にそう話しかけてから、はっと気づいて苦笑した。「わたしと一緒だね」とでも言うつもりだったのか。バカバカしい。  それにしても、なにもこんな冷たい雨の日に捨てなくても。どういう事情かは知らないけれど、無慈悲にもほどかある。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加