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「話したことってわりと忘れないもんだよ。今までユッコちゃんと何度か飲んでるけど、なに話したか結構覚えてる」
「うん、わたしもそうかも」
前回チャッキーに会ったのはだいぶ前なのに、わたしもちゃんと覚えている。確か映画談義に花を咲かせたのだ。
「だから今日の話もきっと忘れない。それに、話せば気持ちも軽くなるしね。ユッコちゃん今笑ってるでしょ? それはユッコちゃんがここに来て、猫の話をしたからじゃん?」
驚いた。確かにその通りだ。
もしもここに来なかったら、ひとりで罪悪感を抱えたままだったに違いない。そして、彼が言うところの防衛本能で、そのうち忘れてしまうのだろう。
「うん、そうだね。ほんとそう。チャッキー、ありがとう」
今日隣り合わせたのがチャッキーでよかった。素直にお礼を言えば、彼は急に顔をしかめた。
「てか、こんな真面目な話すんの、なんか照れるわ。俺っぽくない」
「チャッキーさんは馬並みとかバカ言ってる方が、ぽいっすもんね」
「お、なんだ? 人並みの分際で」
二人がまたおちゃらけ始めた頃、照明がぱっと色を変え、なにかの曲が流れ始めた。向こうの女性客がカラオケを入れたのだ。
天井のミラーボールがクルクル回る。そのぼんやりとした輝きは黒塗りのカウンターにも映り込み、フロア全体を光が踊り揺らめく。
──ああ、これだ。
雨の夜の景色はこれに似ているのだ。だから落ち着くのか。わたしはやっぱり、この場所が好きなのだ。
ひとりで閉じこもっていないで、もっと早く来ればよかった。
「いいね、俺らもカラオケする?」
チャッキーの提案に笑顔で頷いた。
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