57人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
*****
「はい、今日はもう閉店な」
午前三時、店長に半ば追い出されるように店を出た。
雨はまだやんでいなかった。エレベーターが開いた途端、ザーッという雨音に迎えられ、頭をよぎったのはやっぱりあの猫達のこと。
飲めや歌えや楽しく過ごしたって、猫の件は結局なにも解決していない。思い出せばどうしたって気が滅入る。男と別れた事実も変わらない。
けれど、泥酔に近い状態の今、それでも猫達や男のことをちゃんと覚えていることに、何故か少しほっとしたのだ。
「忘れたいと忘れたくないって、同じなのかもね。忘れてほしいと忘れないで、も」
酔っているとなんでも口走るらしい。なんとなくそう呟けば、チャッキーは「うん、そうかもね」と笑った。
チャッキーの家は確かわたしとは真逆の方向だ。傘を開き、「じゃあまた」と告げようとしたところで、先に彼が口を開いた。
「そういえば、どこなの? 捨て猫」
「あー、うちの近くだけど。なんで?」
「見に行ってみようと思って」
「え?」
目的が全く理解できない。今さら見に行ってどうするのだろう。見かけてから五時間は経っている。ひょっとしたらもう……無事ではないかもしれないのに。
最初のコメントを投稿しよう!