・思い出の答え合わせ・

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「……焦って強引なことして、本当にごめん」 「う、うん……」  悟が頭を下げると、千波はほっとしたように頰を緩めた。 「やっぱりまずはちゃんと、彼女と別れるよ」 「えっ……」 「彼女とちゃんと別れてから、もう一度告白する。だから……、それまで結論出さないでくれないか?」 「えっ、えっ? どういうこと!? 今夜のことはなかったことにする、って意味のゴメンじゃないの!?」 「ん? まさか」 「えっ、ちょっと待ってよ。私のせいで彼女と別れるなんて、そんなの困る」 「彼女とのことは俺の問題だから、千波が気に病む必要はないよ」 「そんなこと言ったって……」 「初めからこうするべきだったのに…… 自分のことしか考えてなくて、ホントごめんな」  千波は軽く眉根を寄せただけで、言い返すことを諦めたように唇を噛んだ。 もちろん受け入れてもらえたとは思わないが、それでも少し、前進できたように思えた。  僅かではあるものの手応えを感じた悟は、それから……、と躊躇いがちに切り出した。 「勝手にキスしたことも。本当にごめん」  悟の言葉に、もう!と千波は目を瞑って顔を背けた。 「そんなこと、何度も思い出させないでよ!」  キツめの口調で言ってはいるが、きっと耳まで真っ赤にしているのだろう。 恥ずかしそうに背けられた横顔に、悟は思わず目を細めた。  だけどすぐに首を振って表情を引き締めると、 「とりあえず一発殴っとく?」 と、自分の頰を指さした。  千波はちらっと悟のほうに目を向けると、少し考え込んでからこくりと頷いた。  悟も頷いて返すと、ベッドの傍まで近づいて、床に膝立ちになり目を閉じた。 するとすぐ、ぎしぎしとベッドが軋む音がして、目の前に千波の気配を感じた。  悟が背筋を伸ばしごくりと唾を呑み込むと、一瞬の静寂のあと、バチンッという大きな音とともに、予想以上の衝撃が左の頬を襲った。  悟がゆっくりと目を開けると、唇を噛みしめて恨めしそうに睨みつけている千波と、目が合った。 「小さいのに、意外と力強いな。足りないなら、もっとやっていいよ?」  悟は覚悟を決めて反対側の頰を指さしたが、千波は唇を噛みしめたまま、首を大きく振った。 「じゃあ……」 「許したわけじゃない」 「だよな」  悟が頭を掻いて苦笑すると、千波はでも……、と悔しそうに続けた。 「だからって友だちやめたいとか、そんな風にも思えないし……」 「あ、ありがとう」 「お礼なんて言わないでよ。許したわけじゃないんだから」 「そっか」  この場をどう収めたらよいのかわからず葛藤している千波を、悟は床に腰を下ろして、静かに見守った。  数分の沈黙のあと。千波はなにかを決心したように、がばっと顔を上げた。 その表情はまだ険しいままで、どんな言葉が投げられるのだろうと、悟は身構えた。それなのに…… 「寝る!」 と一言だけ言って、布団の中にもぐってしまった。  悟は一瞬呆気にとられたものの、すぐに千波の思いを汲み取った。 きっともう一度自分を信用してくれるというメッセージだろうと受け止めて、安心してソファーに移動した。 そしてクッションを枕代わりにひじ掛けに上半身を傾けると、窮屈と感じる間もないほどあっさりと、眠りに落ちた───
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