待つ

2/3
前へ
/5ページ
次へ
 まさか、こんな長くて大きなものが買って貰えるなんて、それこそ想像もしなかった、これは夢なのか、いや妄想に違いない。 勿論6歳の幼児に、ここまでの意識は無かったとしても、驚いたには違いない。 「誕生日まで待たなあかんの? 僕・・今直ぐ欲しい!」 「浩司の誕生日はお正月の3日やろ、あと一週間や、もう直ぐやがな!」  最初から買って貰えるなんて、思ってもなかったのに・・もとはと言えば、親父から言い出したくせに1週間も待てとは、6つ・7つの子供には、あまりにも残酷な「待て」だった。    胸が痛くなってきた、まるでデゴイチに失恋したみたいで自然と涙が溢れ出て来た。 私は、ありったけの声を張り上げデパートじゅうに響き渡る大音量で泣き叫んでいた。 「今、買うてくれへんねんやったら、今、言わんといたらええのに!!!お父ちゃんのアホ」とでも言ったのだろう。  親父は、泣き叫ぶ私をどうにかなだめようと交換条件を提案してきた。 「浩司! 分かった、分かったからもう泣きな!・・ほな、こないしょ⁉  どないしても今日、欲しいんやったら、あれや! あれやったら今日、買うたる・・その代わり誕生日のプレゼントは無しやで・・ええか⁉」」  汽車がレールを走る様は全く同じだが、親父が指さしたそれは、目の前を一周廻るだけのチャチなものだった。 「ゥ、ウン?・・それでええよ」  どうしたのでしょう?・・私は今日を逃すと、1週間も先の親父の約束なんてあてにならないと判断してしまったのだろうか?・・それとも、一瞬の欲望を制御できなかったのだろうか、とにかく下手な取引をしてしまったのである。 子供らしいと言えばそれは、それで聞えが良いが、内心はきっと悔しかったに違いない。  当時は発動機の製造販売を事業としていた親父である、6つ・7つの私を丸め込む戦術なんて、たわいもないことだった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加