森に棲む獣

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森に棲む獣

 昔々、あるところに一人の美しい女がおりました。  女は、祖母と二人で、山奥の小さな家で細々と静かに暮らしておりました。歩いて町に下りていき、食べ物を買って、それを祖母と二人で調理し、二人でともに囲炉裏を囲む日々が続いておりました。  ある夜、女がふと目を覚ますと、隣で寝ているはずの祖母がいません。女は少し焦りました。不安になって、暗闇の中、祖母を探し回ります。 「お祖母さん、お祖母さん? どこにいらっしゃるのです」  祖母が布団に入って、眠るところまでは見たのです。確かに寝息を立てて眠っていました。祖母は体が衰えて、歩くのもそんなに速くありません。つまりまだ近くにいるはずです。ところが、物音ひとつせず、シーンとした家には人の気配がありません。  それならば、女の祖母はどこに行ったのでしょう。女は必死に探しました。  森には獣がたくさんいます。早く見つけなければ。変わり果てた姿の祖母なんて見たくありません。 「お祖母さん、お祖母さん、どこへ行ってしまったのですか。両親のいない私にはあなたしかいないのです。おいていかないでくださいませ」  女は、森の中を探します。普段は全くそんなことはないのに、真っ暗なその森は不気味なものです。鳥が飛ぶ音、何かが森を歩く音。それが耳につくたびに身が震えます。  時々葉の間に見えるのは、まんまるいお月様。  いよいよ怖くなってきた女は、もしかしたらもう家に戻って寝ているかもしれないと、引き返そうとしました。  しかしそれはかないませんでした。森の獣に喰われて死んでしまったからです。  女を喰った獣は森の中にある住処に戻っていきました。獣が眠りについたその住処は、女とその祖母が住んでいた家だったのです。獣の姿はゆっくりと人の形をかたどっていきます。  その獣こそ、女の祖母でした。森に棲む獣は、見境なく人間を喰う。だから、近づいてはいけないよ。 お題「女の祖母」
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