30分の砂時計

椿の花が咲くころ

　台風の目って、あるよね。あれはみんな知ってるでしょ？　酷く荒れた台風のその中心は穏やかになる。
　じゃあさ、冬の目、って、知ってる？

　うちの学校には普通とは違う七不思議がある。七不思議といえばトイレの花子さんとか十三段目の階段とか、そういうのが有名だよね。まぁ、全国の学校のトイレにみんな花子さんがいたら、花子さんも相当大変ね。
　それは置いといて、うちの学校の他とは違う七不思議っていうのはね、冬の目っていうのなの。
　昔、学校の裏手にある雑木林の茂った山の中に、小学校があったんだって。でもこの辺、冬になると雪がすごいでしょ。そんな山の中にある学校なんか通うの危険だっていうのに、それでもやむを得ない場合以外は頑張って行ったそうよ。先生は良いわ、学校に泊まれるんだもの。でも、生徒たちは家のこともあるし、そもそもみんなの分の食事を用意するのは大変だから、わざわざ家から通ってたんだって。
　ある日、朝から本当にすごい豪雪で、これはさすがに授業をするわけにはいかないっていうんで休みの通達をしたんだけど、その連絡がいかなかった家庭があったの。その子は何にも知らないで学校へ行ったの。学校には先生もいるし、大丈夫だろうって、親も心配ながら見送ったわ。
　でも、でもね。学校に行くための道が大変危険だったのよ。当り前よね、なんせ雪に埋もれた山の中だもの。
　その子は迷子にはならなかった。毎日通っていたから、何となくでも道はわかった。でも、斜面になっているところで、足を滑らせてしまったの。尻もちをついただけならまだよかったわ。でもそうはいかなかった。転んだ先は崖になってた。そもまま真っ逆さまに落ちていったわ。
　翌朝、子供が帰ってこないって、両親から連絡があって、捜索がされた。一週間くらいあとに、もう見つからないって、捜索は打ち切られた。みんな躍起になって探したけれど、崖の下には川もあったし流されちゃったんじゃないかってことで、見つかる見込みもないから。
　でもね、その子の霊魂は今でもここに残っているって噂よ。新しく別で建てられたこの学校で、冬になると不可解なことが起こるんだって。特に雪の日は生徒が行方不明になったり、雪かきをしていた教師が上から落ちてきた雪の塊に飲まれて死んでしまったり……。

　ね、怖いでしょ？

　今年もここの生徒に交じって、たくさんたくさん、お話しするの……。

お題「冬の目」