いわくつき

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いわくつき

 僕が今いるこの教室は長いこと使われていない、どころかこの学校の校舎自体、全く使われていない。数十年くらい前に廃校になったからだ。  そんなところに何故いるのかって? そんなの決まってるじゃないか、僕が廃墟マニアだからさ。特に、いわくつきの、ね。  この学校が廃校になったのは、もちろん理由がある。いろんな事件が起こったことも、そのせいで生徒の人数が減ってしまったことも。そしてそのおかげで出来た噂が、本当になってしまったことも。  僕がいる教室—3年F組—では、毎年、毎年人が死んだ。いつも決まって夏、そして死ぬのはそのクラスの担任の教師。  何故か。かつてこのクラスではいじめがあった。そしていじめられていた生徒はあと少しで受験で、それが終われば大学生だ、そしたらこのいじめからも解放される、と考えて頑張って耐えていた。そんな生徒の心の拠り所が、志望校に入るための勉強だった。生徒は勉強をすることで正気を保っていたのだ。しかしいじめは加速していく。授業崩壊も必然だった。学校に行ってもまともに勉強をできる環境ではない。だからといって不登校になることもできない。長い間欠席をすれば受験に関わる。  担任は崩れ行く学級に対して何もできなかった。もともとおとなしい女教師だったのだ。  生徒は、何もできない教師にいら立った。教師という生徒よりも上の立場にありながら、生徒を守る立場にありながら、何もできない担任に恨みを持った。勉強できないことと、日々のストレスを教師にぶつけるようにして殺してしまった。すでにその生徒は正気ではなかった。  夏休み、学校の近くで行われるお祭りの時、見回りの担当だった教師を、暗がりに連れ込んだ。生徒という立場を使えばそれは簡単なことだった。そして、溜まりに溜まった愚痴をぶつけながら、押し倒した教師の口に学校から持ち出したチョークを押し込んで、手足を縛り、目も当てられないほどの、肉の塊にしてしまったのだ。  それから正気に戻ったその生徒は殺人を犯してしまった自分はもう大学になんか行けっこないと、自分で自分を殺してしまった。  しかし魂は成仏は出来なかった。毎年、毎年、自分の運命を滅茶苦茶にした担任というものを殺した。恨みに恨んで教室にも出てくるようになった。幸せに生きるクラスメイトをも恨んでいる。  それ以来そのクラスの黒板は、チョークで文字を書くときに爪を立ててひっかいた音がするから、肌寒い黒板と呼ばれるようになった。といういわくつきの教室である。 お題「肌寒い黒板」
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