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「DSなの? へえ、私はほとんどアプリかな」
「携帯は禁止されてるんだ。DSだと、……に持ち込めるから」
「え?」
家の人が、厳しいのかなと思ったけど、少しニュアンスが違うような気がした。
会話が途切れ、さーっと雨音だけが聞こえる。でも、全然気まずくない。静かな時間をひかる君と共有しているようで、嬉しい。
電光掲示板の表示は「あと1分」になっていた。
もうすぐバスが来てしまう。
もっとひかる君といたいのに。
「ひかりちゃんの傘、可愛いね」
「えっ、そう? ありがとう」
ひかる君にほめてもらったら、特別な傘になってしまいそうだ。
透明なビニール傘に、小さな猫のイラストが描かれている。安物だけど、透明だから周りがよく見えるし、だからこそ、ひかる君が良く見えて私的にはラッキーなのだ。
「ひかる君、黙っていなくならないでね」
「え」
勇気を出して言ったのに、ひかる君は驚いた顔をした。驚きというより、困惑の方が近い気がした。
「えっと、それは……」
プーッと音がして、背後でバスの乗車口が開いた。
あっ、と私はそちらへ振り向く。
「バス、もう来ちゃった」
ひかる君に顔を向けたら、
「ひかる君……?」
バス停は、最初から私一人だったように、しん、としていた。
はっと眠りから目覚めた。バスの中だった。
朝? 夕方? どっち?
一瞬わからなくて、腕時計を見たら夕方の五時前だった。
すごく泣きたい気分だった。理由はわからない。最近の私はいつもこうだから。
スマホを開くと、メモ帳になっていて、そこには一行文字が書かれていた。
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