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「ひかる君……」
あなたは夢だったの? 私は長い夢を見ていたの?
「夢だなんて、嘘だよね」
「おりかわさん! 傘!」
「あ……」
きやまだった。私のビニール傘を持っている。
私はつかつかと彼に近寄り、傘を奪い返した。
「あ、ありがとう」
「大丈夫? 急に飛び出していったから。あ、この傘おりかわさんのだって聞いて」
「だって、ひかる君が」
「え、俺?」
「は?」
「あ、いや、俺の名前ひかるだから、呼ばれたのかと」
この人の名前がひかる?
嘘でしょ。
「冗談……じゃあ、漢字はどう書くの」
つい、尋問みたいな聞き方になった。
「えっ、光だよ。夜空の月光のこう」
そこまで同じなんだ。
「私も……同じ漢字」
差している傘を私に傾けているから、きやまの肩が濡れてTシャツの色が変わってしまっている。チャラくても、優しい人なのは知っていた。
さすがに申し訳なくて私は自分の傘を開いて差した。肩が濡れちゃってるよ、と声をかけようとして、私は言葉を飲み込んだ。
きやまがひどく驚いた顔をしていたからだ。
「ひかりちゃんと同じ傘……」
「えっ」
「違ったら、ごめん。もしかして、九二舘高校?」
「そうだけど」
「ひかりちゃんだよね」
きやまの表情があまりにも真剣で、私は誤魔化すことができなかった。
「うん」
「ほんとに、ひかりちゃん……でも、なんで……」
「……バス停の落書き」
私の言葉に、きやまの目が更に大きく開かれた。
私はどうかしちゃったんだろうか。
立ったまま夢でも見てるんだろうか。
きやまの顔が、ひかる君に見えるなんて。
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