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本当だ。
私の知ってるひかる君のまま成長してくれたら、すぐに見つけられたかもしれないのに。
「全然別人なんだもん。喋り方も違うし」
でも、以前の控え目なひかる君だったなら、きっと出逢えなかった。
「もう、消えないでね」
私は手を伸ばし、ひかる君の左手に触れた。
「うん。大丈夫、俺はここにいるよ」
私の手を握り返したひかる君の手は、力強かった。私は初めて、男の人を意識した。
ヤバいな、顔、赤くなってないかな。
「大丈夫。誰も見てないよ」
ひかる君が言った。
本当だ。
雨粒の向こうには、誰も居なかった。
傘をさして向かい合ってる私達だけが、雨のカーテンに囲まれているみたいで。
二人きりなんだ、って思った。
手を繋いだまま、ひかる君は自分の傘を私の傘の上に重ねた。そして一歩近づく。距離が近くなった。
「俺は、黄山光、十八歳。明凛大学一年。趣味は雨を観察すること。忘れられない大切な想い出は、雨の日にだけ会える女の子とお喋りしたこと」
「私は折河光、十六歳。九二舘高校一年生。趣味は……」
ん? と、年上になったひかる君が私の顔をのぞき込んだ。ああこの感じ、やっぱりひかる君だ。
「雨の日に、ひかる君とおしゃべりすること。だったけど、これからはひかる君と、色んな事を一緒にしたいし、行きたい」
ひかる君の涼しげな目が見開かれた。
「うん」
私達は雨の中、並んで傘を差し、歩き出した。
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