傘越しに君と

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 ジンクスみたいなものだろうか。  学校帰りのバス停。ベンチの背中に書かれた落書き。  私はバス停で、必ずその文字を確認する。消されることなく残っていると、毎回ほっとするのだ。  特に雨の日は人気(ひとけ)が無いし、バスの到着が遅れるから、私は必ずその落書きを確認していた。 「何見てるの」  不意に声がして振り向くと、制服姿の男子だった。 「えっと……この、落書き」  私はぼんやりしたまま答えた。そしてそこで初めて、話しかけてきた人の顔を見た。  同じ学年の男子、のような気がした。でも一度も言葉を交わしたことはないと思う。だから、名前も知らない。  彼は隣に並び、私の視線の先を辿った。 「光、って書いてあるね。誰かの名前かな……俺と同じ名前だ」  彼の言葉に、私はすぐに反応した。 「え、そうなの? 私も光だよ」 「ほんとに? すごい、偶然だね」  彼は、にっこり微笑んだ。嘘をついているようには見えないし、悪い人じゃなさそうだ。  本当に私と同じ光という名前だとしたら、親近感さえ覚える。 「これを書いた人、会えたのかな、光って人に」  ひっそりと彼が言った。 「名前なのかな、それ」 「名前だよ、きっと」  彼は、確信するように呟いた。まるで、そう願っているみたいに。  落書きは、『会いたい』『光』と書かれていた。  走り書きのような、曲がった文字。でも、想いが込められているような、そんな文字だ。 「きっと、大切な人なんだよ」  びっくりした。心を読まれたのかと思った。 「うん。そうかもしれないね」    
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