傘越しに君と

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♢  やっぱり今日も降り出した。  折り畳み傘を持参して正解だ。 「ひかり、マック寄って行かない? ケイ達も行くって」  ホームルーム後、一番仲のいいマユに声をかけられる。彼女は雨で部活が休止だと昼休みにぼやいていた。 「ごめん、今日もバイト。また誘って」 「なんだそっか、じゃあまた今度ね」  別に気を悪くする風でもなく、マユは鞄を持って廊下へ出ていく。私は見送りながら、彼と話したのも雨の日だったな、と思った。  ――え、彼?   なんだろう、自分の中に、ごく自然に出てきた言葉だ。「彼と話した」って。 「バイトが三日連続勤務だったから、疲れてるのかな」  あまり深く考えす、私は下校した。  私の通学ツールは路線バスだ。バス停は校門を出てから徒歩四分。駅とは反対側だから、マックに行くとなると、彼がバス停に来てるか確認できない。  私は立ち止まった。 「だから、彼って誰」  夕べは疲れすぎて眠れなくて、つい遅くまで兄に借りたタブレットをだらだら見てしまったのだ。舟を漕ぎながら、ドラマか映画でも見たんだろうか。    バス停が見えてきた。  本数が少ないので、相変わらず誰も並んでいない。 「また同じバスだね」  落ち着いた声に引き寄せられるように振り向いた。  ああ彼だ、と思った。  ひかる君が立っていた。  私は、ほんの少しの違和感を覚えながら、「うん」と答えた。 「この前、急にいなくなったからびっくりしたよ。忘れ物でも取りに戻ったの?」  ひかるくんの長い前髪がふわりと動いた。眉毛を動かしたのかもしれなかった。 「うん、そうなんだ。俺ってこう見えてドジっ子キャラだから」 「ドジっ子って、全然そんな風に見えないのに。だって……」
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