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私は何を言おうとしたんだろう。でも、学校内でのひかる君が思い浮かばなかった。
そもそも、ひかる君は同じ学校なんだろうか。でも、そんなのどうでもいいと同時に思った。
「ひかりちゃんは、しっかりしてそうだよね。周りにも頼られるでしょ」
まさかの下の名前呼び! あ、でも私もそう呼んでいたんだ。
「えっ、そんなことないない! あたし末っ子だから甘えん坊だし」
甘えん坊って……何言ってんだ。
「ひかりちゃん、末っ子なんだね。俺は一人っ子だから、羨ましいな」
「そう?」
「うん」
ひかる君の声は、すごく穏やかに耳に届く。ずっと降り続くやまない雨の合間をすり抜けて、私の耳にすっと入ってきて、心地いい。
私達の笑い合う声が、時々雨音に遮られるけど、二人だけがこの中に閉じ込められてるようで、温かい心地になる。
「バスが来た」
残念そうにひかる君が言った。私もきっと、同じ顔をしていたと思う。
視線の先で信号が変わり、バスがこちらに向かって動き出していた。あっという間に到着してしまう。
「ねえ、ひかる君は」
ひかる君は消えていた。
「また、消えちゃった」
ドジっ子だから、また忘れ物を取りに戻ったの? どれだけ忘れん坊なの。
――一消える前に、一言伝えてくれればいいのに。
私は泣きたい気持ちでバスに乗り込んだ。
♢
「おはようございまーす」
コンビニの制服を羽織り、バックヤードから店内へ入る。「いらっしゃいませ」と来店客に声をかけながら、レジへ向かった。
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