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「今日は雨の予報だったのにな」
残念な思いで見上げた空は、快晴だった。
「晴れ最高! やっと外走れる~」
マユは嬉しそうに言った。校庭利用解禁に、運動部員達は皆、喜んでいることだろう。
「でもさあ、ひかりが雨好きだなんて知らなかったよ。ちょっと意外」
「えっ、好きってほどじゃ……まあ、そうだね。雨の雫を眺めるのは好きかも」
「なんじゃそりゃポエマーか! じゃ、あたしは部活行くね、また明日!」
「ん、ばいばい」
ぶんぶん手を振ってマユが廊下に走っていく。先生に見つかったら怒られそう。
――多分マユなら、きやまみたいなタイプが好きなんだろうな。イケメンだとか騒ぎそうだし。
ナチュラルに天敵の事を考えている自分に驚いた。
だめだ、あんな軽薄なヤツを大事な友達に紹介できない。そもそも、紹介できるほど仲良くもないけど。
私のことをよく知りもしないくせに「好きなタイプだ」とか言ってくるヤツになんか。
――やっぱり私は、彼みたいに穏やかで誠実そうな人が理想だな
また。
「だから誰なのよ、彼って」
私、ヤバいかな。週四でバイトを入れてたけど、しばらくシフトの間隔を空けた方がいいのかも。
ぼんやり考え事をしていたら、教室は無人なっていた。
「うわ、時間がもったいない。帰ってDVD見たり漫画読んだりしよっと」
鞄を持ち立ち上がると、開け放した窓からびゅっと強い風が入り込む。鼻をかすめたのは、湿った空気、雨の匂いだった。
「雨……降るの?」
私は鞄を抱え、教室を飛び出した。
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