千輪菊のちりかかる

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 蝉がうるさいこの時期、私は祖母のお墓参りに来ていた。汗が止まらなくて、水をいくら飲んでも足りない気温。何年たっても、この町は変わらない夏を迎えている。 「お姉ちゃん、遅いよ~」 もう中学3年生になったのに、まだまだ幼げな妹が丘の上で振り返って言う。 「仕方ねぇだろう、姉ちゃんが一番荷物持ってんだから。」 「だったら涼太がもっと持てばいいでしょ。」 「はあ?無理言うなよ、おれ片手しか使えねぇのに。」 いつ見てもこの子たちは双子に見えない。可哀そうなことに、夏休みが始まる前日に部活で腕を折った弟は、利き手にギプスをつけ、スポーツバッグとお土産の紙袋を持ってくれている。遠くで喧嘩を始める二人を止めるため、小走りに駆け上がっていく。リュックは、肩からずり落ちているし、両手いっぱいに持つ妹と自分の2週間分の荷物は重くて仕方ない。 「大体、おまえが自分の荷物持てよ! 」 「嫌よ! 手を怪我したらどうするの?! 」 「荷物くらいでケガするわけねえだろ! 」 私が二人に追いつくと、涼太が私の持つカバンを一つ掴んだ。 「一個ぐらい持てよ! せめて自分の楽器は自分で! 」 「わかったよ、うるさいな。」 止めに入ろうとしたのに、要らなかったかな?   「もうバス来ちゃってるし。じいちゃん待ってっからサッサと行くぞ。」 涼太の言う通り、もうバスは真後ろに来ていた。何とかお財布を出して、二人に小銭を渡す。これで足りるかな? 普段バスは使わず、自転車で行動する私は、渡した両を心配しながら涼しい車内に足を入れる。 「あ、お姉ちゃん10円足りない。」 やっぱり間違えてた。すでに熱い顔が余計に火照るのがわかる。 バスに乗るだけなのに、なんでこうなるかな。汗はもう引いたがまだまだ顔が熱い。 「そんなに気にしなくてもいいのに。」 妹にすら白い目で見られてしまった。 窓の外を見ると、去年もその前も、ずっと変わらない景色が広がる。ダイアモンドを散りばめたターコイズブルーの水が広がり、入道雲が記憶のまま浮かんでいる。反対を向けば、乾ききった田んぼが無限に続き、人っ子一人いない。こんな田舎だから、バスに乗る人なんて滅多にいない。実際に、今バスに乗ってるのは私たち3人だけ。普段の光景とは真逆なこの場所が私は好きだ。満員電車は無く、ガラガラのバスに乗るか、灼熱の中ひたすら歩くかの二択。大きな声で歌いながら歩いていても、誰一人と気にしない。そんな自由で広くて孤独な場所に、お爺ちゃんはもう5年一人で住んでいる。 「疲れたろう。遠くまでありがとう。」 記憶通りのお爺ちゃん……いや、少し細くなったかな? それに、なんだか元気もない気がする。 「うわ! おじいちゃん家汚いよ! 」 「掃除してんのかよ。」 一足先に中へ入った二人が声を上げる。確かに中をのぞくと酷いことになっていた。綺麗好きなお爺ちゃんがゴミを捨てず、物が仕舞われていないグチャグチャな部屋で過ごせる訳がない。お爺ちゃんを見ると、少し恥ずかしそうにしていた。よく見ると、来ている服もヨレヨレで、お洗濯をしていないことが分かった。こんなに、弱弱しい見た目だったかな? 
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