千輪菊のちりかかる

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 「うわ~これ何時のゴミだよ! 」 居間に荷物を置き、掃除を始めた私たち。一年会ってないだけで、こんなに人は変わるのだろうか。お爺ちゃんは、私たちが掃除をするのを見ながら、静かに座っている。去年来たときは、ピッカピカな床に立ちなが笑顔で出迎えてくれたのに。でも仕方がない。こうなってしまったら掃除をする以外洗濯は無いのだから。まずは溜まりに溜まったゴミを回収して、庭にでも置いておこう。確か、明後日が生ごみの日だから。よかった、もうこれ以上長く生ごみを家に置いておくのは危険だ。 「ねえ、私ヴァイオリンの練習したいから、掃除抜けるね。」 すると突然妹が話す。掃除を始めてほとんど時間は立っていないがもう嫌になったそうだ。いつも不機嫌になったときにする癖が出ている。 「ふざけんなよ、お前全然手伝ってないくせになに勝手に抜けようとしてんだよ。」 「仕方ないでしょ、ケガもしたくないし、私暇じゃないの。」 不機嫌に言葉を吐いて、彼女はそそくさと外へ出て行った。 「なんだよ……」 そんな姿に苛立つ弟。確かにあれは失礼な去り方だった。でも無理もない。彼女には名門の音楽専門校に入るための試験が迫っているのに、他の子が強化合宿などに行っているこの夏、私たちとこの街に来ることを選んだのだ。焦りもある上、夏休み明けには入試の評価に反映すると思われるコンサートが控えている。そうなれば、ピリピリして過剰な態度を取るのも無理がないのかもしれない。  「えっ、いいの? でも姉ちゃん一人でこの部屋片づけるの無理じゃね。」 しかし、この子だって同じだ。双子であるなら当然高校入試が待っている。一応二人の学校は中高一貫だ。私も同じ学校にいるわけだし。でも二人とも行きたい高校が別にある。彼は、陸上の強豪校に行きたっがっている。あまりスポーツは詳しくないので、その学校がどんな場所かは知らないけど、そのために毎日必死に練習をしている姿を見てきた私には、どれ程大切なこと何か痛いほどわかる。でも今は、ケガをしてしまって練習が出来ておらず、きっともどかしくて、悔しくて仕方がないのだろう。でもそんな感情を一切見せないこの子は、いつも無理をしているように私の目には映っている。 「そっか、じゃあおれじいちゃんと行ってくるね。」 せっかくの夏休み。ケガで練習ができないなら、せめて隣街でスポーツ観戦でもしてくればいい。大体、私に二人のような夢は無いし、片腕が使えない弟に掃除をさせるわけにもいかない。お爺ちゃんだって孫と遊びに出れば、気分転換になるだろう。 「んじゃ、行ってきまーす! 」 元気な声を出し、暗いお爺ちゃんを連れてバス停に向かう弟の背中は、一見頼もしくも思えるが、やはり幼く、無理をしていることが分かる。 ゴミ屋敷とかしたこの家。昔はもっと賑やかで楽しい場所だった。いつもお客さんが来ていて、お祖母ちゃんの美味しい手料理が何かしらテーブルに乗っていた。お菓子だったり、ちょっとしたおつまみだったり。そして夜になるとそのテーブルはより一層豪華になる。毎年お盆休みに来るのが楽しみで仕方がなかった。双子はこのことを覚えていないだろうけど、私は何時までも忘れられない。でもこんなに変わり果てたのに、この窓から見える夏景色は何時までも変わらず、私を嘲笑っている。
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