小さな世界

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「どお?」 「排気ガスが混じっててマズイ」 「想像してみて。この空気はモンゴルの大草原ともつながってるんだ。トキワは今大草原の中だよ」  なんでモンゴルと、つっこみたくなったが、目を閉じて草原と同じ空気を吸ってることを想像して、もう一回深呼吸をしてみる。  その刹那――、風が私を包んだ。目の前に草原が広がる。遠くから馬のいななきが聞こえ、次の瞬間、馬が、馬の集団が土埃をあげ、音を響かせ駆け抜けていき……。  驚くのもつかの間、それは一瞬で消え、丘を吹く風がただ優しく髪を揺らしていく。 「……少し爽やかな気持ちになれたかも」 「そう。よかった。  世界は今トキワが見ている場所だけじゃない。世界は広いし、つながっている。  この星空も、つながっている」  先ほどの不思議な体験で夢見心地の私は、ボーっとしたまま夜空を見上げる。…………。街の灯りのせいで、星は―― 「あまり見えないけど……」 「この夜空がインドの空とつながっていると想像してみて」 「インドぉ?」  今度はインド? 戸惑う私に、タマが優しくうなずく。 「そう。インドで星空の下、ヨガをやってる気分で吸ってみて」  最近インドも大気汚染酷いらしいし、ここで見る星空とそんな変わらないかもね……。  苦笑しながら、満点とは言えないたぶん満天の星を見つめて、ヨガっぽく腹式呼吸をゆっくりしてみる。  と――、スパイシーな香りが漂ってきて、チャラチャラと音が……弦楽器の調べが……あれは確か、シタールだっただろうか。そう思い出したとき、私の周囲に人が――、インドの民族衣装に身を包んだ人々が出てきて踊りだした!  「あっ」という間に、牛が飛び出しきてきて……。
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