3章

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 昔、普通の高さだとおもっていた机といすは私たちの体にはもう小さいものになっているようで、座っている格好は少し不格好だ。  伊藤君はじっと窓の外の風景を見ている。風景といっても、ここからみえる風景はきれいなものではない。  ベランダの壁のコンクリートと近くの高速道路の自動車が走っている音。そして、その向こう側にわずかにマンションが見えるだけだ。  ここにいたころはその風景を忌み嫌っていた。  小さいころ読んでいた児童書に出てくる小学校には必ずと言っていいほど、桜や綺麗な風景で彩られているのに、この風景はあまりに無機質すぎる。  しかも、風景の中に自分の家が見えることが私の気持ちを余計にみじめにさせていた。  こんなところだから、私が嫌な目にあっているんだと、滅茶苦茶な責任転換をしていたことを思い出し、自嘲的な笑みが浮かぶ。  でも、今見ると不思議だ。  私は伊藤君の前の席に座り、窓に掌を付けた。  無機質だったはずの風景がこんなにも懐かしい。  こんな風景、大っ嫌いだったはずなのに。
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