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頭の中で繰り返し唱え、不機嫌そうな顔をしているであろう鈴木を見上げた。
「寝れたけど⋯⋯なんで不機嫌そうなの?」
「いや、不機嫌じゃないよ」
「そう? 」
疑わしいとは思いつつも。目的の場所の前についたので会話を止める。足も止めると、鈴木はそこを通り過ぎてスタスタと向こうに歩いていこうとしていた。
「鈴木! 行き過ぎてる」
「え? 」
鈴木は振り返ると、ポカンと口を開けた。
「斎藤、何してるんだ? 」
私は今、南禅寺につながる線路に行こうと、線路への道に足をかけているところだ。
「何してるって⋯⋯普通に線路を歩こうと」
「線路の中に入ったら、違法になるって知らないのか? 」
「⋯⋯あぁ! 」
やっと鈴木が何を言いたいかを理解することができた。
「鈴木、もしかして南禅寺来たことない? 」
鈴木は未だに私の足元を見て、線路に乗り込まないかハラハラしている様子だ。
「来たことないよ」
「なら、知らないかもね。これは、歩ける線路だよ。歩いて大丈夫なんだよ」
言っても、まだ私の足元を見続ける鈴木にしびれを切らし、鈴木の手首をつかんで線路に入る。
線路に入ると、桜こそ散りかけだが、その代わりに桜の花びらが線路にひき詰められてピンク糸の絨毯が広がっていた。そして、葉桜でもまだ桜を見に来ている人はいるようで、あちこちで人が写真を撮っている。
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