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「⋯⋯人がたくさんいる」
唖然とする鈴木に得意げに笑いかけた。
「ね? だから、言ったでしょう? 」
「すごいな⋯⋯。これ」
「だよね。私ここ好きなんだ。⋯⋯この辺りが京都で一番好き」
「それは、遠足で行った清水とかよりも? 」
「うん。清水寺も良いけど、人がたくさんいるから。こっちのほうが私は落ち着く」
「そうか⋯⋯。分かる気はする」
しばらく、ぼーっと眺めていると鈴木が歩き始めた。そのあとをついていく。
線路の間に四角い石が埋め込まれてあり、それを軽くジャンプして進む。たまに失敗して靴裏に感じる石が痛い。息が切れてきて、前を見ると鈴木が長い脚を利用して、普通に歩いていた。
「⋯⋯鈴木は良いなぁ」
誰に聞かせるつもりもない独り言のつもりだったが、前を歩いていた鈴木には聞こえていたようで、ぴたりと足を止め振り返った。
「何が? 」
その鈴木の顔は能面のようで、息が詰まった。
わずかに残っていた桜の花びらが風で舞う。
その桜色と鈴木の黒髪で見えなくなった表情を見て、失敗したと思った。これは言ってはならないことだったのに。
普通の高校生の男女なら、良いなという相手をうらやむセリフは許容され、言われた相手は少し照れたようにはにかむのだろう。
でも、私たちにそれは成立しない。当たり前のような普通の言葉は、当たり前ではないのだ。
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